未来につながる選択を、買い物から。イオンの環境配慮「えらぼう。未来につながる今を」フェア 現地レポート

環境に配慮した商品やサービスが広がる中、消費者にとって「何を選ぶか」はますます重要な意味を持つようになっています。
イオングループは、その「選択」を後押しするための環境配慮フェア「えらぼう。未来につながる今を」を開催しています。
第3回となる今回は、全国6,200店舗での開催に加え、新たに衣料品分野も加わるなど、取り組みの幅がさらに拡大。
本レポートでは、埼玉県越谷市のイオンレイクタウンmoriで実施された記者会見と、フェア会場の様子、さらに、注目のサステナブル商品2つを紹介しながら、流通業が果たすべき環境対応の方向性について考察します。
公益財団法人流通経済研究所
研究員 寺田 奈津美
【取材会レポート】
⚫フェアの背景と目的:なぜ始まったのか?
イオン株式会社 副社長・土谷美津子氏は、フェアの立ち上げ経緯を以下のように語りました。
―「取引先企業から『環境に配慮した商品はすでにあるものの、その価値をお客様にうまく伝えられていない。伝える機会がない。』という声が多く寄せられました。そこで、イオンと取引先企業各社の従業員が一体となって取り組み、お客様に直接伝える場としてこのフェアを始めました」
今回のフェアには19社が参加し、全国6,200店舗で展開。今年からは衣料品もラインナップに加わるなど、年々スケールアップしています。
消費者の関心も高まり、「商品の背景を知ったうえで選びたい」と考える方が増えているとのこと。加えて、参画を希望する企業も年々増加しており、サプライチェーン全体での取り組みとして、その輪が広がっていることがうかがえます。

(写真手前から、株式会社カイタックファミリー ジーンズカジュアル営業部 西部長、イオン株式会社 土谷執行役副社長、株式会社ロッテ 中島代表取締役社長)
⚫出展企業の声と取り組み
◆ ロッテ:サーキュラーエコノミーをお菓子で表現
株式会社ロッテの中島社長は、同社が出展した「もったいな〜い!なコアラのマーチ」について、次のように説明しました。
―「これは、当社の中長期ビジョン『ロッテ未来チャレンジ2048』に基づき、サーキュラーエコノミーを体現する商品として開発しました。事業活動を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています」
◆ カイタックファミリー:衣料品の“もったいない”をなくす
衣料品メーカー・カイタックファミリー、ジーンズ・カジュアル営業部の西部長は、衣料品業界としての環境課題に取り組む姿勢を語りました。
―「衣料品も環境負荷が大きい業界です。だからこそ“もったいない”をなくすことが必要だと考えています」
今回紹介されたカイタックファミリーの取り組みは以下の3点です:
- 播州織カットクロス:パジャマ製造時に出る端切れを包装資材として再活用
- デニムアート:デニム製造時の余り布にレーザー加工を施してアート作品にアップサイクル
- MUDA ZERO プロジェクト:不要衣料品を回収し、新たな商品へリサイクル
どれも、衣料品のライフサイクルにおける「循環」を意識した取り組みであり、今後の広がりが期待されます。

⚫ 暑さへの対策と地域貢献
近年の猛暑への対策として、イオングループは以下の取り組みも進めています:
- 「COOL de ACTION」商品による暑さ対策提案
- 全国約4,500か所に設置されたクールスポットの一般開放
- 熱中症対策アンバサダーの育成(6月時点で全国で13,000名超の認定を見込む)
これらの活動は、環境への配慮だけでなく、地域住民の健康・安全を守る役割も担っています。

⚫ フェア会場の様子:企業とお客様がつながる場に

フェア当日は、開店直後から多くのお客様がブースを訪れ、商品を試食したり、従業員から直接説明を受けながら商品の背景や環境配慮の工夫に耳を傾けていました。
なかでも印象的だったのは、スタッフの皆さんが商品の魅力をいきいきと語る姿です。「どのように環境にやさしいのか」「どんな味わいなのか」などを丁寧に伝える様子から、自社の商品に誇りを持ち、お客様と対話を楽しんでいる様子がうかがえました。
また、子ども連れの家族には体験型ブースが人気で、SDGs人生ゲームや環境クイズ、紙おむつからリサイクルしてできた紙粘土の工作など、楽しみながら環境問題を学べる工夫が凝らされていました。

【注目のサステナブル商品ピックアップ】
① ロッテ「もったいな〜い!なコアラのマーチ」
~カカオハスクをおいしくアップサイクル~

ロッテが開発したこの商品は、チョコレート製造過程で廃棄されていたカカオハスク(カカオ豆の皮)をビスケットとチョコレートに活用したものです。
カカオハスクには食物繊維が豊富に含まれており、これまで処理が難しかった工程を独自技術で安全に加工することで、商品への活用が可能になったとのこと。これにより、廃棄物の削減と味わいの向上を両立しています。パッケージには、カカオ原産地・パプアニューギニアの固有種の動物をあしらい、カラフルな色使いで環境配慮の取り組みを楽しく伝えています。
開発担当者の方によれば、これまで環境や社会をテーマにしたチョコレート商品は大人向けが多かったため、子どもも大人も楽しみながら自然と関心を持てるような商品を届けたいという思いで開発されたそうです。
【豆知識】
カカオハスクは、カカオ豆の外皮にあたる部分で、チョコレート製造時に取り除かれ、通常は使用されずに多くが廃棄されています。その発生量は世界で年間約5,500万トンと推定されておりで、これは、カカオ豆の総量の13倍にもなる[1]とされています。日本国内でも年間約5,000トン[2]が発生しているといわれており、その有効活用が課題となっています。


(画像:ロッテホームページ「カカオについて」より)
■カカオハスクのその他の活用事例
食品用途に限らず、カカオハスクは以下のような分野でもアップサイクルが進んでいます:
l コンクリートを超える!? 新素材への展開
明治 × スタートアップ企業fabula

l 染料としての活用:パジャマ&アイマスク
ロッテが染料として商品展開

l ビール・タンブラーへの応用
アサヒユウアス主導の協業プロジェクト

これらの事例に共通しているのは、技術力を持つスタートアップ企業など異業種の外部パートナーと連携しながら、廃棄物の削減と新たな事業の創出を同時に実現している点です。今後も、こうした取り組みを通じて新たな商品や市場が生まれていくことが期待されます。
② ユニ・チャーム「RefF」
~使用済み紙おむつの水平リサイクル~

ユニ・チャームは、使用済み紙おむつを新しい紙おむつに再生する「水平リサイクル」の実現に向けた取り組みを進めています。同社は2024年、世界で初めて使用済みおむつの完全リサイクル技術を確立しました。
従来は、使用済みおむつに含まれる高分子吸収材が尿と分離しにくく、衛生面や品質の課題からリサイクルが困難とされてきました。今回開発された新技術により、その課題をクリアし、安全かつ高品質な紙おむつへの再生が可能となりました。[3]

出所:ユニ・チャーム「RefF」ホームページ
2016年からは、鹿児島県志布志市や大崎町と連携し、専用の回収ボックスを設置してテスト回収を行ってきました。技術だけでなく、回収・分別・再製造までを含めた仕組みづくりが進められています。
この取り組みは「RefFプロジェクト」として進められており、リサイクル品には専用の「RefFマーク」が付されています。2024年4月からは、九州エリアのイオン68店舗でリサイクルおむつ商品の販売を開始し[4]、消費者への普及が進められています。

【背景データ】
高齢化や介護ニーズの増加により、使用済み紙おむつの排出量は年々増加しています。環境省の推計[5]によれば、2022年度の紙おむつ排出量は4,034万トンにのぼり、一般廃棄物全体の5.3〜5.7%を占めています。2030年には6.6〜7.1%まで増加すると見込まれており、早期の対策が急務です。
高齢化社会の進展に伴い、今後も需要が増える紙おむつ。多くの紙おむつは現在、焼却処理されており、その過程で発生するCO₂や廃棄コストは大きな課題となっています。ユニ・チャームの取り組みは、廃棄物問題と高齢社会の課題の両方に対応する、社会的インパクトの大きな施策といえるでしょう。
【まとめ】
今回のフェアでは、ペットボトルや紙おむつ、衣料品などを対象とした水平リサイクルや、廃棄物を再利用するアップサイクルの取り組みが数多く紹介されました。これらの実現には、技術開発だけでなく、回収や再資源化の仕組みづくりが必要であり、企業同士の連携や自治体との協力が不可欠です。
今後、サプライチェーン全体を通じてサステナビリティを推進していくことの重要性は、さらに高まっていくと考えられます。とりわけ、メーカーや小売など流通業各社にとっての大きな課題は、商品の背景にある環境・社会的価値をいかに消費者に伝え、それを購買行動へとつなげるかという点です。
今回のように、現場で直接お客様に説明できる機会は非常に有意義です。しかし、限られた場だけに頼らず、より多くの人に関心を持ってもらい、理解を深め、行動に移してもらうための新たな伝え方も模索していく必要があります。
そのためには、たとえば「なぜその商品を購入したのか」「どの表示やキャンペーンが印象に残ったか」「購入後も継続的に選ばれているか」といった視点で、消費者の行動や意識の変化をデータから可視化し、分析する取り組みが有効です。こうした定量的な理解は、環境配慮商品の“伝わりにくさ”や“行動とのギャップ”といった課題を乗り越えるヒントにもなるでしょう。
また、今回のフェアで特に印象的だったのは、従業員の方々がいきいきと接客をされている姿です。自社の環境や社会への取り組みを直接お客様に伝えられることに、誇りや喜びを感じている様子が伝わってきました。こうした活動は、従業員のエンゲージメントやウェルビーイングの向上にもつながっているのではないでしょうか。
かつて「環境配慮は売れない」と言われた時代から、今や企業が主導して環境配慮商品の市場を育てる時代へと変わりつつあります。イオンをはじめとするリーディング企業の取り組みは、サプライチェーン全体を巻き込みながら、新たな価値観を社会に浸透させる動きとして、今後も注目していきたいと思います。
【参照文献】
[1] Nguyen, V.T., & Nguyen, N.H. (2017). Proximate Composition, Extraction, and Purification of Theobromine from Cacao Pod Husk (Theobroma Cacao L.). Technologies, 5(2), 14.
(https://www.mdpi.com/2227-7080/5/2/14?utm_source=chatgpt.com#B3-technologies-05-00014)
[2] 明治ホールディングス株式会社「産地への思いが動かした、カカオの意外なアップサイクル」(https://www.meiji.com/stories/24.html)
[3] 日本経済新聞、2025年3月13日「ユニ・チャーム、おむつを漏れなくリサイクル 技術確立(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC101BX0Q5A310C2000000/ )
[4]ユニ・チャーム_紙おむつの未来を考えるnote「「使用済み紙おむつ」から生まれたRefF商品 イオン九州で店頭デビュー!関係者レポ」(https://note.com/unicharm_reff/n/na4f641e6b7fd)
[5]環境省「令和6年度使用済紙おむつ再生利用等に関する調査業務報告書」(https://www.env.go.jp/recycle/recycling/diapers/diapers_recycling.html)
「えらぼう。未来につながる今を」第一回フェアの取材レポートはこちら👇
