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【取材】ホテル業界のサステナブルリーダー ヒルトン沖縄宮古島リゾートのサステナビリティ

【取材】ホテル業界のサステナブルリーダー ヒルトン沖縄宮古島リゾートのサステナビリティ
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公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 船井 隆
研究員 寺田 奈津美

近年、サステナブルツーリズムという概念が大きな広がりを見せる中、今回は、ホテル業界・ヒルトン沖縄宮古島リゾートの取り組みについてご紹介します。宮古島トゥリバーホテル合同会社 ヒルトン沖縄宮古島リゾート 営業部の岩瀬達郎さんと、総料理長の寺嶋誠一郎さんに伺ったお話を詳しくお伝えします。

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宮古島トゥリバーホテル合同会社 ヒルトン沖縄宮古島リゾートの
営業部 岩瀬 達郎さん(右)と、総料理長の寺嶋 誠一郎さん(左)
目次

ヒルトンについて

 ヒルトンは、世界140の国と地域に8,400軒以上(125万室以上)のホテルを展開するホスピタリティ業界のグローバルリーダーです。世界で最もおもてなしの心に溢れた企業であることをミッションに掲げ、100年以上にわたって、30億人を超えるお客様をお迎えしてきました。米フォーチュン誌とGreat Place To Workによる「働きがいのある会社」ランキングで第1位に選出され、世界的な ESG投資指標である「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス」でグローバルリーダーに選出されています。


※ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)は、米国のS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社とスイスのRobecoSAM社が共同で開発した投資家向けのインデックス(指数)である。時価総額で世界の上位3,500社を評価対象とし、環境・社会・ガバナンス(ESG)の3つの側面から企業を評価し、サステナビリティ(持続可能性)に優れた企業を構成銘柄として選定している。
 
評価は62の産業ごとに行われ、各業種で上位10%に入る企業が「ワールド・インデックス」に組み入れられる。ワールド・インデックスに次ぐインデックスとして、日本を含むアジア太平洋地、新興市場、欧州、北米などの地域別インデックスが存在する。2024年には、全世界で321社が選定され、そのうち日本企業はセブン&アイ、丸井、味の素、中外製薬、住友林業など37社が含まれている。

ヒルトンのサステナビリティ方針や目標、推進体制

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ヒルトン沖縄宮古島リゾート 営業部 岩瀬 達郎さん

――貴社のサステナビリティ方針や目標、推進体制について教えてください。

  ヒルトンは、2011年から責任ある旅行を推進する「トラベル・ウィズ・パーパス(Travel with Purpose)」と名付けたESG戦略を展開しています。2030年までに環境負荷を半減させ、社会貢献に対する投資を倍増するという目標のもと、水使用量や廃棄物削減などの数値目標を設定し、各ホテルで環境、機会、コミュニティへ向けた取り組みを実施しています。これにより、事業活動、サプライチェーンそして地域社会において環境や社会へポジティブな影響を与えることを目指しています。

 「トラベル・ウィズ・パーパス」の重点分野と目標

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出所:「2022 年トラベル・ウィズ・パーパス(Travel with Purpose)レポート」日本語版ハイライト

 各ホテルのESGに関する数値目標は、アメリカ本社のESG戦略部が主導により全世界に対して発信されており、「トラベル・ウィズ・パーパス」で決められた環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に関する指標が、グローバルなレベルから各地域へとドリルダウンして展開されています。

  まず、APAC(アジア太平洋地域、以下APAC)オフィスに適用され、そして日本・韓国・ミクロネシア地区、そして日本の各ホテルへと落とし込まれていきます。このようにして、各ホテルに対して地域ごとの数値目標が設定される仕組みになっています。

  現在、ヒルトン東京ベイのGM(総支配人、以下GM)がリードして、日本・韓国・ミクロネシア地区の各ホテルの進捗を管理しており、各ホテルは毎月の進捗状況を報告しています。たとえば、日本や韓国、ミクロネシアで目標に対して、どれくらい達成しているかを確認し、各ホテルに対して具体的な指示が送られます。

  各ホテルでは、目標の設定、実施状況の報告、進捗管理のための仕組みが整備されています。たとえば、ヒルトンとしては、「2030年までにチームメンバー(チームメンバー)と地域コミュニティのために500万件の学習およびキャリア成長の機会を創出すること」や、「2,000万人のコミュニティメンバーに意味のある影響を与えること」などの目標を掲げています。
 こうしたグローバル目標に基づき、各ホテルにも「チームメンバー一人あたり月〇時間のボランティア活動を行う」といった具体的な目標が設定されます。

  さらに、各ホテルにはESG戦略の推進役として「チャンピオン」と呼ばれる担当者が配置されており、現場での取り組みを主導しています。

  ホテルで行われた取り組みの実績は、ヒルトンの社内システムに数値として入力されます。たとえば、宮古島市のビーチクリーン活動への参加や、ホテル前の花壇整備などの地域貢献活動について、参加人数や活動時間を記録することで、実績が可視化される仕組みです。

  こうして蓄積されたデータは、各ホテルの目標達成状況を評価するために活用されます。毎月、国内の各ホテルに向けて進捗状況がメールで共有され、「現在、日本国内の29ホテルのうち○○個が目標を達成。残り○○個の達成で全体目標をクリア」といった内容に加え、達成が遅れているホテルに対するフィードバックなども含まれています。

  また、「トラベル・ウィズ・パーパス」の具体的な目標について、例えば、環境については、2030年までに直営ホテルでCO₂排出量を75%削減し、フランチャイズホテルでは56%削減するという目標を掲げています。

 CO₂削減のほかにも、食品廃棄物の削減、ケージフリー卵の使用、サステナブルシーフードの採用など、環境に配慮した取り組みなどが求められています。特にシーフードについては、国際的なサステナブル認証を取得したものを使用することが推奨されており、各ホテルでこうした基準に沿った対応が進められています。

 ――「チャンピオン」はどのような人が担当されるのですか?

  ホテルごとに違いはあるものの、設備管理や環境対策の取り組みは、専門知識を持つエンジニアが担当することが多いです。また、LED照明の導入や節水対策などの目標が設定されているため、施設管理担当者や運営側の責任者(オペレーション責任者、フロント担当者、F&B(料飲、以下F&B)部門の責任者など)が関わるケースも多いですね。

 ――チャンピオンの全社的な会議やアワードなどはありますか?

  全社的な会議やアワードは特にありませんが、優れた取り組みに対して助成金が支給される制度はあります。各ホテルが自らの取り組みに対して資金援助をAPAC地域オフィスに申請し、助成される仕組みがあります。

ヒルトン沖縄宮古島リゾートにおけるサステナビリティの方針、目標、推進体制

――ヒルトンの一員として、ヒルトン沖縄宮古島リゾートにおけるサステナビリティの方針、目標、推進体制について教えてください。

  先ほどお話ししたように、私たちはヒルトンのグローバル目標に基づき、それに沿った取り組みを実施しています。例えば、環境分野では、水や電力の削減、廃棄物の削減や、地域コミュニティに関しては、町の清掃ボランティアや植樹活動、花壇の整備などの社会貢献活動を年間計画として策定し、実施しています。これらの取り組みを主導するのが、ホテルのGMやチャンピオンです。

  推進体制について、イベントなどの具体的な活動の参加者は事前に固定されているわけではなく、計画を立てた後に全社に発信し、各部門長がシフトを調整しながら参加を促す形になっています。そのため、参加人数はそのときによって異なり、20人程度のときもあれば、30~40人集まることもあります。

  また、CO₂削減や食品廃棄物といったテーマごとの明確なチーム分けはないものの、例えば食品廃棄物対策ならキッチン部門が自然と主導するなど、業務内容に応じた形で取り組みが進められています。全体としての取り組みを推進するのは、GM、チャンピオン、オペレーション統括責任者、の3名が中心となることが多いです。

 <ヒルトンのESGの取り組みの概要と目標>

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出所:「2022 年トラベル・ウィズ・パーパス(Travel with Purpose)レポート」日本語版ハイライト 

◎ 食品廃棄物削減の取り組み

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ヒルトン沖縄宮古島リゾート 総料理長 寺嶋 誠一郎さん

――食品廃棄物削減の取り組みについて教えてください。

 食品廃棄物削減については、「Winnow(ウィノウ)」というシステムを活用しています。このシステムは、直接食品廃棄物を削減するだけでなく、チームメンバーの意識を高め、チームで話し合いながら改善を進めるためのツールでもあります。

 このシステムでは、AIを使って廃棄されている食品の種類や量、金額をデータ化して分析します。チームメンバーはそのデータをもとに、廃棄状況を把握し、「今日はこれが多く捨てられているけど、どうすれば減らせるか?」と検討します。そして、例えばビュッフェレストランで、「この時間帯にこの料理を多く作ると余ってしまう」といったことがあれば調整を行い、適切な調理量を設定するなどの対策を取ります。

 現在はまだ実現していませんが、食品廃棄物削減の一環として、賞味期限が迫った食品の活用も検討しています。将来的には、賞味期限が切れる前にその食品を宮古島の子ども食堂などに提供できればと考えています。ただし、寄贈先のニーズと提供できる食品のマッチングなど、いくつかの課題があるため、現時点では具体的な方法を模索している段階です。

 また、発注のタイミングを調整し、賞味期限切れによる廃棄を極力減らすよう努めています。しかし、大規模な施設ではどうしてもロスが発生することもあるため、削減に向けた新たな取り組みも検討しています。

  さらに、食品廃棄物が廃棄される際にはCO₂が排出されるため、その影響を「Winnow(ウィノウ)」のシステムを使って概算しています。例えば、どれだけの量の食品を廃棄すると、どのくらいのCO₂が排出されるかが一目でわかります。そのデータをもとに、CO₂削減の必要性をチームメンバーに啓蒙することができます。

 また、ヒルトン沖縄宮古島リゾートでは、生ごみと余った食品はすべてリサイクルして堆肥化しています。契約業者に引き取ってもらい、さらにそれを堆肥化して畑に撒き、その畑で採れた食材を再びホテルで仕入れるという、リサイクルループの仕組みの構築に取り組んでいるところです。

 現在は農家との連携が難しく、一部しか実現できていませんが、今後、この取り組みをさらに広げていけば、食品を燃やすことで発生するCO₂の削減ができ、堆肥化によってゴミを減らすことができると考えています。 

「Winnow(ウィノウ)」を活用した食品廃棄物削減の取り組み

 「Winnow(ウィノウ)」を活用した食品廃棄物削減の具体的な取り組みとして、ミーティングの中で前日の食品廃棄について振り返ることを行っています。例えば、「このメニューの廃棄量はどのくらいだったか?」「最後にお客様へ案内したのは何時か?」「その時点で来店状況を考慮して適切な判断ができていたか?」といった点を話し合い、原因を分析する流れを取っています。ただし、あらかじめ決まった取り組みを設定しているわけではなく、その都度データに応じて適切な対応ができるようにしています。

 例えば、ビュッフェでお客様に人気のあるメニューは、ホール担当者が多めに準備したくなる傾向があります。しかし、前日の廃棄が多かったのであれば、そこを意識的に調整し、「このメニューをもう一皿分追加」といった声かけを抑え、「半分の量でお願いします」と工夫することで、食品廃棄物を削減できる場合も多くあります。こうしたポイントを、ホールチームメンバーとキッチンチームメンバーの間で共有し、柔軟に対応しながら運用しています。

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――前日のデータを活用し、食品廃棄の原因を分析しながら議論することは食品廃棄物削減の重要なポイントであり、こうした分析が可能なほど細かくデータを取得できる仕組みが整っていることが大きいということなのですね。

  そうですね。「Winnow」では、廃棄後にカメラで写真を撮ることで、廃棄物のデータを収集します。撮影する廃棄物には、お客様の食べ残しに加え、厨房での廃棄物(調理過程で出る皮やヘタを除く)も含まれます。例えば、ビュッフェ用に準備したものの、その日に提供できず、翌日には使えなくなった食材や、冷蔵庫で下準備をしていたものの、何日か使用されず賞味期限が切れた食材などが該当します。

 さらに、これらの廃棄物を種類ごとに分類しています。撮影した画像はAIが認識しますが、食材の色が似ていたり、調理済みの料理では付け合わせも一緒に捨てられるため、正確に判別できないことがあります。そのため、チームメンバーが「どこで」「どのような食品を」廃棄したのかを補足入力し、精度を高めています。

 また、Winnowのシステムでは、メニューごとの食品廃棄物の重量・金額・廃棄時間がダッシュボードに一覧表示されるため、どの食材が特に多く廃棄されているのかを把握できます。そのデータをもとに、「お客様に人気がないのでは?」と分析し、必要に応じてメニューの見直しを行っています。

 このシステムの導入により、食品廃棄物削減の効果は大きく、廃棄量は着実に減少しており、実績としても、明確な成果が出ています。

 一方で、このシステムを使うと、通常の廃棄作業より時間がかかるという課題もあります。通常はゴミ箱に捨てるだけですが、「Winnow」では、廃棄後にカメラで写真を撮る工程が必要となるため、作業に時間がかかります。時間がかかるからこそ廃棄が減るという効果もありますが、閉店作業を急ぎたい現場にとっては負担が大きく、残業の原因にもなるため、最初はチームメンバーからは不満の声もありました。チームメンバーの負担増加という課題があるものの、このシステムは廃棄量の削減の結果を見て、今ではチームメンバーも熱心に取り組んでくれています。

<Winnowの具体的な活用イメージ>

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出所:ヒルトン東京ベイのWinnow活用事例紹介動画より筆者作成

動画はこちら👇

<ヒルトンのWinnow活用状況とその成果について>
「Winnow」社と提携し、AIによる食品廃棄物を可視化するツールを活用し、食品廃棄物削減への取り組みを行っています。ヒルトン東京ベイを皮切りに、現在15軒のホテルでこのツールを導入しています。「Winnow」社のツールを使うことで、シェフは食品廃棄物の重量と種類を正確に把握し、データに基づき仕入れや調理法などを見直すことで、コスト削減にもつながります。可視化することで、食材ロスをいかに減らせるか、さらにチームメンバーの意識改革が実現しています。それによりヒルトンでは2024年には121トンの食品廃棄削減、523トンのCO2排出削減、そして304,459食分の食糧ロス削減を達成しました。

 *AI技術で食品廃棄物を可視化するサービス「Winnow」の詳細はこちら

◎ プラスチック削減の取り組み

 ――プラスチック削減の取り組みについて教えてください。

 当ホテルではペットボトルを販売しない、または提供しないようにしています。客室では、一般的なホテルに見られるような500mlペットボトル2本入りの水は置かず代わりにウォーターピッチャーを配置し、お客様ご自身でディスペンサーから氷と水をご利用いただく形で提供しています。一部のお客様からは不便だという声もありましたが、こうした取り組みについては当ホテルの環境への取り組みとして理解していただきたいと考えています。

 さらに、ホテル内の売店でもペットボトルの商品は取り扱わず、水やジュースはすべて紙パックでご用意しており、できる限りプラスチックの使用を減らすようにしています。

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客室に設置されているウォーターピッチャー
出所:ヒルトン沖縄宮古島リゾート提供

◎ 地域貢献の取り組み

 地産地消の取り組みとして、沖縄で採れた食材もできる限り取り入れることで、地域への貢献をしています。規模の大きなホテルではそれだけでは全てを賄うことが難しい場合もありますが、漁協や農協と協力して、地元の食材を積極的に取り入れています。

  さらに、宮古島市や地域の団体が島全体を盛り上げるために行う活動には、積極的に参加するようにしています。

 例えば、宮古島市では、毎年5月30日の「ごみゼロの日」に「ごみ拾い大作戦」として、市民が各自の都合のよい時間に身近な場所でごみ拾いを行う取り組みを実施しており、当ホテルもこの活動に参加しています。

  このような地域の取り組みへの参加は、ビーチクリーンをはじめとした清掃活動が中心です。宮古島の海岸には大量のごみが流れ着き、放置するとすぐに溜まってしまいます。季節によって風向きが変わるため、韓国や台湾のペットボトルが多く流れ着く時期があったり、北や南の海岸でごみの量が変わったりすることもあります。

 年間を通じて多くのごみが漂着し、中には柔軟剤や洗剤のボトルなど、「なぜこんなものを海に捨てるのか?」と思うようなものもあります。こうしたごみを回収し、少しでも宮古島のビーチを美しく保つために、継続的に活動を行っています

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ごみゼロ大作戦前の出発式で一致団結した宮古市の方々の様子=市役所前
出所:宮古新報「島が確実にきれいになった日 ごみゼロ大作戦へ出発式 昨年上回る1158人の事前登録

 <ビーチクリーンの様子>

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出所:ヒルトン沖縄宮古島リゾート提供

 そのほかには、ホテル周辺の街路樹や花壇の整備の取り組みも始めました。ホテルの近くの道に街路樹があるのですが、台風で折れたり枯れたりして、枯れた後には雑草が生え、荒れてしまっている場所があります。

 そこで、当ホテルが何か植えても良いかと宮古島市に相談したところ、「ぜひやってほしい」と言っていただきました。今年から取り組みを始め、ホテル周辺の街路樹の草むしりや、道端にある花壇を耕して花を植える準備をしています。実際に来週から花を植える予定です。(2024年11月26日取材当時)

<花壇の整備・植え付けの様子>

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出所:ヒルトン沖縄宮古島リゾート提供

 また、当ホテルでは、できるだけ宮古島出身の方を採用し、地元の雇用創出に貢献しています。弊社のESG目標達成の一環として、宮古島の高校生を対象にインターンシップや職場体験を実施し、ロビー業務を体験してもらうなど、卒業後に当ホテルで働くきっかけを作る活動を行っています。地域への教育支援もグローバルな指標の一つとして重視しています。

  最近では、サンゴの養殖・植え付け体験を実施しました。宮古島を含む沖縄では、海水温の上昇や赤土流出、オニヒトデの食害などの影響で、サンゴ礁が大幅に減少しています。宮古島の海でも、多くのサンゴが白化し、死滅するケースが増えており、生態系への影響が懸念されています。

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白化したサンゴ
沖縄県内各地の海でサンゴの白化現象が続いている。サンゴの白化の原因は、温暖化等による海水温の上昇と考えられている。
出所:NHK沖縄「”深刻化”する沖縄のサンゴ白化現象」2024年9月9日

 そこで、当ホテルでは通信制高校の生徒15人を招待し、伊良部島環境協会の方を講師に迎えて、サンゴの現状や生態を学んだ後、実際にサンゴを植え付ける体験会に参加していただきました。このような活動を通じて、地元のサンゴを守る意識の醸成と教育の機会を提供しています。学校側からの要請もありますが、当ホテルからも積極的に地元の高校を訪問し、体験参加を呼びかけています。

 この取り組みは地元団体と協力して実施しており、宮古ブルーの美しい海を未来に残すため、今後もこのような地域のための活動を続けていきたいと考えています。

 *ヒルトン沖縄宮古島リゾートでは、地域の方向けにサンゴの植え付け体験会を開催しています。

<サンゴの植え付け体験会の様子>

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出所:ヒルトン沖縄宮古島リゾート提供

▷ 参考記事:宮古新報「サンゴ白化防止へ 伊良部島環境協 海洋環境の変化を危惧 ヒルトンで植え付け体験会」2024年8月25日

◎ 持続可能な調達の取り組み

 サステナビリティの観点からは、持続可能性に配慮した食材の調達を目指しています。例えば、魚などの水産物に関しては、MSC認証やASC認証を取得したものを使用することが目標となっており、グループ全体で使用する全シーフードのうち何パーセントを認証されたものを使用するかという目標が本部から示され、それに基づいて調達を行っています。

  さらに、ヒルトンではケージフリー卵の使用を進めており、その目標値も定められています。各ホテルで使用する卵は、通常の卵だけでなく、だし巻き卵や液卵などの既製品も含め、全卵の使用量に対して何パーセントをケージフリー卵にするかという目標が設定されており、それに基づいて調達を行っています。

  現在のケージフリー卵の調達割合の目標は約20%ですが、宮古島ではケージフリー卵を生産している場所が少ないため、富士山の麓で生産しているケージフリー卵を取り寄せています。その卵を運ぶためにガソリンを使いCO₂を排出することになってしまうので、先ほどお話したような他の活動にも力をいれています。

  グループ内でのケージフリー卵使用の推進は、アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点からも重要視されています。アメリカではケージフリー卵が主流になっており、ヒルトンがこれを導入することは、グローバル企業ならではの特徴とも言えます。

 ケージフリーで飼育された鶏は、動くことのできないケージ飼いの鶏に比べて健康に育つことは確かです。ケージ飼いでは、鶏が動けないため抗生物質を与えて病気を予防ことがありますが、ケージフリーの場合、鶏は飼料だけでなく、土の中のものや自然の食物を摂取することで、より健康的な卵を産むことができます。そのため、ケージフリー卵は安心・安全であると考えられています。

 ――アメリカでは、一部の州で採卵鶏など採卵用家きんのバタリーケージの禁止または制限などの法規制が始まっており、ケージフリー卵への完全移行のコミットメントを公表する企業も増えています。また、消費者の意識の高まりを受けて、スーパーマーケットでは多種多様なケージフリー卵を取り扱う店舗も多いそうです※。日本ではこれらの認証や商品はまだあまり認知されていませんが、欧米では広く消費者に浸透していると言われていますよね。また、海外、特に欧米からのお客様が多いホテルでは、MSC・ASC認証やケージフリー卵への対応を気にされる方が多いと聞いています。貴社ではいかがでしょうか?

  宮古島は離島であるため、沖縄本島と違い、外国からのお客様の比率は1割程度とそこまで高くありませんが、ヒルトンがグローバル企業であることもあり、こうした対応への期待は強く感じます


 ※参考:独立行政法人 農畜産業振興機構 海外情報 米国 畜産の情報 2022年8月号「米国畜産業におけるアニマルウェルフェアへの対応について」(https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002306.html

◎ サステナブルな会議やイベントを提案する「ミート・ウィズ・パーパス」

 ヒルトンでは、「トラベル・ウィズ・パーパス」の取り組みの一環として、よりサステナブルな会議やイベントの実現を目指すミート・ウィズ・パーパス(Meet with Purpose)」を推進しています。

 近年、グローバル企業や大手企業の間で、会議やイベントにおける環境への配慮がますます重要視されるようになっています

  この取り組みでは、イベントや会議の企画段階からできるだけCO₂の排出を抑えるようなプランをご提案します。例えば、料理の内容を工夫したり、地産地消の食材を活用したりすることで、CO₂の削減につなげるプランを作成し、具体的な内容が決まると、ヒルトン独自の環境負荷計算システム「LightStay(ライト・ステイ)」を活用して環境負荷を算出します。「LightStay」に参加者数や宿泊日数、食事内容などのデータを入力すると、そのイベントによる食品廃棄物、水の消費量、CO₂排出量などを算出できます。これを基に個々のイベントや会議用に作成した「LightStayレポート」を、提供できる仕組みになっています。

 ライトステイ概要の動画(英語)

「LightStayレポート」のイメージ(英語版)

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出所:Sample Meeting Impact Calculator Report

 会議やイベント自体をできる限り環境負荷の少ない形で提案することを基本としていますが、どうしても発生してしまうCO₂については、ホテルが環境団体に炭素クレジットの代金を支払うことでオフセットを行います。ヒルトンは、環境団体「ClimeCo」を通じて炭素削減プロジェクトに貢献するための炭素クレジットを確保し、お客様に代わってCO₂排出量を相殺しています。この取り組みにより、毎月ホテルからCO₂削減に資金拠出を行う形になっています。お客様にオフセットにかかる料金はチャージいたしされません。

 これは、企業のお客様に対する「環境に配慮したイベントを開催しませんか?」という営業の提案ツールとしても活用しており、他のホテルとの差別化にもつながっています。

  また、ホテルの設備面での対応については、節水シャワーヘッドへの交換はもちろんのこと、エアコンにも環境配慮の仕組みを導入しています。例えば、窓が開いていると自動的にエアコンが停止する機能や、お客様が部屋を離れると自動的に設定温度が28℃になるシステムなど、設備面での工夫を施しています。

 当ホテルは新しくオープンしたこともあり、こうした最新の環境配慮型設備を積極的に取り入れています。

 ▷ ヒルトンのサステナブルな会議やイベントの開催の詳細はこちら

◎ サステナビリティの取り組みに対するお客様の反応

――最近のお客様のサステナビリティに対する意識や行動の変化について、何か感じることはありますか? 例えば、アンケート結果や売上データから、変化が見られる点があれば教えてください。 

 大手企業では、SDGsやESGの観点を考慮し、イベントの開催地を決定する際の要素の一つとして環境配慮を重視する傾向が強まっています。実際に、企業の会議やパーティーを企画する際、「できるだけ環境に配慮した内容で提案してほしい」と要望されることが増えています。地方の中小企業では、まだ環境意識の高まりは限定的だと感じることもありますが、大企業を中心にこうした動きがみられます。

――環境への取り組みに対してお客様からクレームなどはありますか?

 クレームは特にありません。以前は「不便」「使いにくい」といった意見が寄せられることもありましたが、最近ではSDGsの観点から理解してくださるお客様が増えてきました。

 先にご説明しましたが、当ホテルでは客室にペットボトルの水を置かず、大きなピッチャーを設置し、お客様に必要な分だけ水や氷を補充していただく方式を採用しています。これに対して、始めた当初は「不便だ」という声もありましたが、最近はそうしたクレームやコメントが減少し、サステナブルな取り組みへの理解が進んでいると感じます。

 ――こうした変化を、貴社ではどのように戦略や施策に活かしていますか?

  先ほどご説明した「LightStay」というサービスを活用することで、会議や旅行をサステナブルなものにすることをお客様にご提案することができ、ヒルトンが環境に配慮した安心・安全なホテルであることをお伝えしています。具体的には、見積書や契約書と一緒に「LightStayレポート」を渡し、「ぜひ当ホテルで開催してください」とご案内しています。

この取り組みは、ホテルを選んでもらうための戦略の一部でもあり、同時に実際に環境のためになる取り組みであるため、そうすることが正しいことだと思っています。

  一方、そのような対応をすると、調達する商品の原価はどうしても上がります。ケージフリー卵や地産地消、サステナブルシーフードの利用などは、原価が上がるため利益とのバランスを取るのが難しい部分もありますが、責任ある旅行を推進するために、グローバルで設定された目標達成にむけ、着実に実行していく必要があると感じています。

 ――グローバルの目標があり、各ホテルの数値目標が決定されているということが、目標達成とそのための取り組みの実行の強い原動力となっているということなのですね。

  そうですね。グローバルな明確な目標値が設定されていて、それをターゲットにみんな取り組んでいます。そういう意味で、各ホテルに具体的な数値目標を課しているということは、具体的な行動に結びつき、実際の結果につながっていると思います。

 ――グローバルなベンチマークの中で、一番チャレンジングなもの、達成が難しいものは何でしょうか?逆に、順調に達成できているものはありますか?

  ケージフリー卵の調達は、かなり苦戦していますね。

 ただ、グループ全体ではかなり順調に目標を達成できています。特に当ホテルは新しくできたばかりで、電気使用のデマンドコントロールや、水の消費量を抑えるためのシャワーの導入など、最新の環境に配慮した設備を導入できているため、エネルギーや水の削減に関しては比較的順調に進んでいると思います。

 ――素晴らしいですね。今後もさらに取り組みを拡大されることを期待しています。ありがとうございました。

まとめ

 今回はホテル業界をリードするグローバル企業ヒルトンの一つ、ヒルトン沖縄宮古島リゾートのサステナビリティ推進についてご紹介しました。その中で、特に注目されたポイントとして、以下の3点が示唆されました。

①     グローバル目標に基づく各ホテルの数値目標設定:ヒルトンのESG戦略「トラベル・ウィズ・パーパス」に沿って、環境・社会・ガバナンスの各目標がグローバル・地域・国・各ホテルレベルで具体的な数値目標として設定されている。日本国内の各ホテルは、ESG戦略を推進する「チャンピオン」やGMを筆頭に、毎月の進捗を報告し、活動実施している。こうした具体的な数値目標設定と管理体制が、具体的な行動につながり、実際の成果を生み出している。

②     AI技術で食品廃棄を可視化・削減:AI技術を用いた食品ロス可視化ツール「Winnow」を導入し、食品廃棄の削減を実現している。食品廃棄物を計測・可視化し、データをもとにチームで原因を分析する運用体制をとっており、メニューごとのロス量やコスト、廃棄時間などのデータを活用し、仕入れや調理方法を見直すことで、効率的にロスを減らしている。この取り組みは、チームメンバーの意識改革にもつながっている。

③     サステナブルな会議・イベントの推進:「ミート・ウィズ・パーパス」の一環として、より環境負荷の少ない会議・イベントの開催を提案。料理の工夫や地産地消の食材活用によりCO₂排出を抑え、さらに排出量の一部を環境団体へ資金拠出することでオフセットしている。ヒルトン独自の環境負荷計算システム「LightStay」を活用し、食品ロス、水の消費量、CO₂排出量を算出しており、これを基に作成した「LightStayレポート」を見積もり段階で顧客に提示することで、営業ツールとしても活用している。この取り組みは、環境への配慮だけでなく、他のホテルとの差別化にもつながる重要な施策となっている。

  サステナブルツーリズムの拡大が進む中、今回の取材を通じて、企業が会議やイベントの開催地を選ぶ際に、サステナビリティや環境への配慮を重視する傾向が強まっていることがうかがえました。また、一般の消費者の間でも環境配慮の取り組みへの理解が深まり、関心が高まっていることがわかりました。

  一方で、外資系企業であるヒルトンは、日本国内ではまだまだ認知度の低いMSC・ASC認証のシーフードや、調達事態も難しいケージフリー卵の使用拡大を積極的に推進しており、ヒルトン沖縄宮古島リゾートでもその点に苦労していました。このことから、特に調達の分野においては、海外と日本とではサステナビリティや環境配慮に対する意識の温度差があると感じました。

  今後、ホテル業界は、施設の環境対策はもちろん、持続可能な調達、サステナブルなイベント・旅行サービスの提供、地域社会への貢献、チームメンバーのウェルビーイングに至るまで、幅広い分野でサステナビリティに対応する必要があります。ヒルトンのようなホテルの取り組みへの認知が高まり、支持が広がれば、業界全体が大きく変わっていくでしょう。

 ――岩瀬さん、寺嶋さん、ありがとうございました!

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*今回お話を伺った内容以外にも、ヒルトングループではESGの取り組みを進めています。その一部をご紹介します。

2030年目標に向けての進捗状況

「2022 年トラベル・ウィズ・パーパス(Travel with Purpose)レポート」では、ヒルトンが2022年7月に旅行・観光業界でネットゼロの未来に向けた道を支援するための環境面の目標および新しい社会的な活動の目標を発表(https://stories.hilton.com/travel-with-purpose/hilton-enhances-esg-targets-climate-action-social-impact)して以来の進捗を初めて報告しています。

 ・全世界で、炭素排出量、水の使用量、埋立廃棄物の削減を継続的に実施。ヒルトンが運営するホテルでは2008年を基準値として2022年末時点で炭素排出量は47.1%減、水の使用量33.4%減、埋立廃棄物65.4%減
・500万人に学習とキャリアアップの機会を創出する目標に対し、677,359人以上に機会を創出
・地域への支援、災害救援活動、経済的な支援を通じて、2,793,920の地域社会の人々に貢献
・世界の不動産セクターの脱炭素化を目指すフィフスウォール社の気候テックファンド2つに投資

 ヒルトンは、効率的な資源管理、廃棄物の削減、学習機会の創出、責任ある調達、二酸化炭素排出量の削減など、主要な分野でアジア太平洋地域の「トラベル・ウィズ・パーパス」の取り組みを強化し、グローバルレベルで持続可能性に関する主要目標の達成に向けて前進し続けています。

EV充電の設置: ヒルトンの最新のグローバル・トレンド・レポート(https://view.ceros.com/hilton/hilton-2022-trends-report/p/20 英語)では、86%の旅行者がより持続可能な旅行を望んでいることが報告されており、ヒルトンは2022年12月時点で、アジア太平洋地域の110以上のホテルで、お客様向けにホテル敷地内でEV充電を提供し、ウェブサイトとヒルトン・オナーズのアプリに、EV充電ができる施設を検索することができる新しい検索フィルターを設けました。中国のヒルトン舟山に新たに設置されたEV充電ステーションは、すでに60トンの自動車から排出される炭素を削減しており、ヒルトン・サプライマネジメントチームは、このサービスをより多くの施設に拡大するため、EV充電のパートナー会社との優先契約を継続的に推進しています。

リネンの再利用と地域社会のサポート:Diversey Incとの活動

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ヒルトンは、国際的な清掃・衛生管理会社であるDiversey Inc.とアジア太平洋地域で提携をし、ホテルで廃棄されるリネンが新しいものへ生まれ変わっています。カーテン、ユニフォーム、ベッドシーツ、テーブルクロスなどが製品化され、各地のコミュニティで縫製、デザインされ販売されています。プラスチックは砂利に、廃棄されたコーヒーのかすは炭の代替品としてリサイクルされています。

ヒルトン・グローバル財団で地域社会に貢献

●これまでにヒルトン・グローバル財団は、800万ドル以上の助成金を贈呈し、1800万ポンド以上の食料を必要とする地域社会に寄付、670万人以上に有意義となる影響を与え、22万5000エーカー以上の土地を修復してきました。ヒルトングローバル財団の取り組みについての詳細は、こちら(https://hiltonglobalfoundation.hilton.com/ 英語)をご覧ください。


引用元:プレスリリース「ヒルトン、アジア太平洋地域で企業責任戦略「トラベル・ウィズ・パーパス(Travel with Purpose)」を推進」より抜粋

🔗参考リンク

▷ ヒルトンのトラベル・ウィズ・パーパス(Travel with Purpose)について(英語)

▷ 「2022 年トラベル・ウィズ・パーパス(Travel with Purpose)レポート」日本語版ハイライト

【取材】ホテル業界のサステナブルリーダー ヒルトン沖縄宮古島リゾートのサステナビリティ

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