【一歩先行くセブン&アイ】従業員のサステナビリティ活動を推進するアプリのお話

公益財団法人 流通経済研究所
サステナビリティ部門
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美
研究員 船井 隆
みなさま、こんにちは。
当部門では、サプライチェーンのサステナビリティについて調査研究しております。あるときは統計データの分析、あるときは企業や団体・官公庁等にお邪魔して興味深い取組みを取材、ときおり新技術等の社会実装支援、と様々な活動をしています。
その中で今回は、セブン&アイグループが開発された独自のサステナビリティ推進アプリ「サステナスマイル」について、リリースから約一年が経ったタイミングにてお話を伺う機会がありましたので、その一歩先行く取組みについて紹介いたします!
セブン&アイ・ホールディングスの本社にて、執行役員ESG推進本部シニアオフィサーの和瀬田様と、同部の鈴木様、またアプリ開発を担ったセブン&アイ・ネットメディアの開発本部より藤井様と篠原様にもご参加いただき、お話を伺いました。

アプリの概要
『今日の「ちょっと」が明日の笑顔につながる』をテーマとするこのアプリは、セブン&アイグループで働く従業員のみなさん一人ひとりが、サステナビリティへの関心や理解をより一層深め、行動変容につながることを願って開発されたそうです。
その「明日の笑顔」のための仕組みがとても面白く、下記の画像でまとめられているように、①理解向上と共感、②健康、③社会貢献という3つの柱により、環境、社会、自分の健康の向上について、日々少しずつ学びながら行動できるように設計されています。

①理解向上と共感
順番に概要を見ていくと、まず最初の理解向上に関するカテゴリでは、環境やサステナビリティについて、全般的な知識を学べる学習コンテンツとクイズ(外部専門機関で作成されたものを導入している力の入った仕様)があったり、セブン&アイグループがどんなことに取り組んでいるかを知るニュースの配信があります。同グループには規模も事業内容も非常に多岐にわたる企業が存在しているので、一人ひとりの従業員にとっては、ご自身が所属する個々の企業の取組みは見えていても、グループ全体の取組みについては把握しにくいかもしれず、それゆえ、「私たち」を主語にして捉えられる機会は貴重な場なのではないかと感じました。
②健康
次に健康に関しては、スマホの歩数測定機能と連携して、毎日の歩数を可視化して管理するとともに、みんながどれだけ歩いたかをランキングにして公表しているそうです。これが予想外の盛り上がりを見せているとのことで、アルバイト社員から役員まで多くの方が毎日歩数を競い、なんとランキング上位者を本社に招待して表彰式まで実施されたとのことです。ちなみに、トップとなったのはとある店舗で店の隅々まで動き回って大活躍をする店長さんだそうで、毎日平均して2万歩以上歩かれていたそうです。すごいですね!
また、歩数を意識すると、「一駅分ウォーキングしようか」となったり、いつもだったらタクシーに乗っている場面で歩いて移動することもあるのではないかと思います。これは、運動不足の解消+微量ながらもCO₂排出量の削減にもつながることですので、良いこと尽くめかもしれません。
③社会貢献
そして、ここが最も意義深い部分なのですが、上記の学習やCO₂排出量削減のための行動などを積み重ねていくと、アプリ上で日々ポイントがたまっていく仕組みになっています。そのポイントは、セブン-イレブン記念財団への寄附という形で使うことができ、環境のための社会貢献活動につながります。
つまり、従業員一人ひとりが日々の生活の中で少しずつサステナビリティへの意識を高めて行動をしていけば、自らのウェルビーイングにつながりつつ、それが社会と環境への目に見える貢献にもなるということです。
もちろんこのポイントの原資となる費用を負担しているのは他ならぬセブン&アイグループですので、この枠組みを構築し、社会と従業員のために責任をもって実行している同グループの真摯な姿勢は素晴らしいと思います。
一歩先行く①:様々な垣根を飛び越えるインナーコミュニケーションに
上述した通り、このアプリはセブン&アイグループの幅広い企業群で活用されることを想定して開発されたアプリです。現在は同グループのセブン‐イレブンやLoft、赤ちゃん本舗などの小売業態であったり、セブン&アイ・フードシステムズなどの外食業態、また開発元でもあるIT業界のセブン&アイ・ネットメディアやセブン・フィナンシャルサービスなどの金融サービスにいたるまで、幅広い企業17社(2025年2月時点)で導入され、企業の垣根を越えたコミュニケーションツールになっているとのことです。
さらに、導入企業の中では、正社員だけではなく、パート社員など社員番号を持つ方なら全員がログインして利用可能になっています。とはいっても、全員が会社貸与のPCやスマートフォンを使用する環境ではないため、できるだけ多くの従業員に使ってもらえるように、個人のスマートフォンでiPhoneやandroidのアプリストアからダウンロードして使う形式を採用したそうです。すると、使用する場面が勤務中に限らないことから、自分のお子さんと一緒に環境クイズに取り組んだり、プライベートでグループ内の店舗に訪れた際の気づきやニュースを投稿をする方も出てきているそうです。
世の中では、企業の垣根、雇用形態の違い、ワークライフの分断…などから起因する問題が昨今よく聞かれるものですが、その情勢を鑑みると、このサステナビリティのためのアプリが、意外にもグループ内のインナーコミュニケーション促進ツールとなっているのは副次的な効果として非常に興味深いですね。
また、インナーコミュニケーションのために開発されたコミュニケーションアプリがなかなかうまく機能しない、という課題に悩む企業もありますが、そんなケースと対照的かもしれません。
現在の導入社数と利用者数はまだまだ目標とする数値には達していないということもお聞きしたので、量的側面については今後の発展が期待されるものだとは思いますが、こちらのコミュニケーションツールとしての存在感も要注目です。
一歩先行く②:ありそうでなかったAIの活用法:盛り上げ役
そのコミュニケーション促進の観点では、人気コンテンツでもある、従業員の「リアルな声」を反映した投稿をもっと増やしたいと考えているそうです。そこで導入されたのが、生成AIコメンターの「サスティちゃん」!
これは、下記の画像のように、ユーザーが何かを投稿すると、サスティちゃんが投稿に関連するコメントや豆知識を返信してくれる機能です。

これだけ見ると、「AIが返信してくれても投稿者は嬉しくないのでは…」と思うかもしれません。しかし、実際には、AIが投稿の内容に即した適切で有益なコメントを瞬間的に返してくれることで、今まではいわゆる「既読スルー」のような反応をしていた方がリアクションをしてくれるようになったとのことです。AIの機能に対する驚きや、豆知識に対する感心の声、そしてそれらを含めたうえで投稿そのものに対するコメントが盛り上がり、なんとサスティちゃんのリリース前後の2週間で比較すると、投稿数は2.5倍、投稿へのリプライ数は5倍に増えました。
これはリリース直後で反応がよいときの数値なので、もう少し長期的な目線での効果検証が待たれるものではありますが、短期的にはサスティちゃんの反響と盛り上げ効果は大きいようです。
AIの活用方法については、日々さまざまな場面で議論されているものだと思いますが、問合せに対して回答を出すチャットボット的存在ではなく、この「盛り上げ役」という役割は、ありそうでなかったものかもしれません。その着眼点の独自性などから、サスティちゃんを支えるAI「Gemini」を開発しているGoogle社のウェブサイトにて、特集記事が掲載されています。
こちらは、AI導入の背景や技術面・ガバナンス面でのチャレンジなどが記載されている興味深い内容ですので、ぜひ下記リンクよりあわせてご覧ください。
続く事例は…
上記のように、アプリとして非常に独自性の高い機能や役割を持つサステナスマイルですが、より俯瞰的に見てみると、もう一つ別の興味深い特徴があります。
それは、純粋にITに特化した企業から生まれたアプリではなく、小売・飲食の現場を持つ企業グループで作られたアプリだということです。それゆえ、店舗ビジネスの働き方や従業員構成、働く方の職場と家庭生活が距離的にも心理的にも近いことなどが考慮された上で、その従業員体験が向上するような仕組みになっていると感じました。現場を理解し、密接な連携でトライアル&エラーをしながらアプリを作っていける環境ならではの強みですね。
今後、他の企業でもサステナビリティアプリが広まっていく展開があるとしたら、導入を検討される店舗ビジネス業態の企業は、まずはセブン&アイグループにご相談されてみてもよいかもしれません。
セブン&アイグループの皆様、貴重なお話を伺う機会をいただき、ありがとうございました!